いまここにあるものでつくる

長いあいだ人々は、そこに草があれば草で、木があれば木で、石があれば石で、水と氷しかなければ水と氷を工夫して、住まいをはじめとした暮らしに必要なものをつくってきた。いまここにあるもの、目の前にある素材をどう活かせば、便利に機能を果たしかつ美しいものがつくれるか。身近にある素材と親密なコミュニケーションを繰り返し、各々の個性を活かし、無理を強いることなく、気候風土や自然が求めることに対しても無理をしない。そのようにして作られてきたものは、本当に合理性があり無理や無駄がなく美しい。なぜその素材を選んだのか、なぜその形になったのか、細部から全体に至るまで、圧倒的な説得力に裏打ちされている。その土地ならではの個性が自ずから備わって、つくられた当時はもちろん後世にいたるまで、そこで暮らす人々のアイデンティティの一部となって、誇りと勇気を与えてくれている。

私は建築を学ぶ旅を続けるなかで、自分なりにいくつかの大事な原則を見出しましたが、その筆頭がこの、いまここにあるものでつくる、ということでした。ただ、今日ではむしろ特殊なことになっているのがこの原則でもあります。素材や建材は身近な自然のなかからではなく、カタログかインターネットの中にあるものです。暮らしの道具であれ建築であれ、それらを構成している素材のほとんどは、私たちの土地や歴史、アイデンティティとはなんの関わりもないのが普通です。

いまここにあるものでつくる。この原則をどうしたら復権させることができるのか。好事家のそれとしてではなく、合理的で自然なこととして。そう考え続けてきた中で、はじめは我が国の山の木の活用に取り組み、今では街の木を活かそうと試みています。目指しているのは、街の木でできた建物をつくることではありません。街の木でできた建物が、自ずから建ち上がってくる仕組みをつくりたいのです。街の木を取り巻く常識や仕組みをアップデートして、街の暮らしとそこで使われる道具や建物や街並を変えていく。カタログにある素材でつくるよりも、私たちの土地にあるものでつくった方が良かった、楽しかった、次もまたそうしたい。そう思わずにはいられない、そんな実例をこそ、つくっていきたいと思うのです。

 

Yoshiyuki Yuguchi

都市森林プロジェクト

庭木、街路樹、公園木。これまで眺めるだけだった街の木に「活かす」という視点を取り入れて、その魅力と価値を最大化。木があって良かった! のその先に、「街の木=都市森林」の新しい循環が生まれようとしています。

都市森林株式会社

一般社団法人街の木ものづくりネットワーク

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© 2019 Yoshiyuki Yuguchi