いまここにあるものでつくる

長いあいだ人々は、そこに木があれば木で、草があれば草で、石があれば石で、水と氷しかなければ水と氷を工夫して、住まいをはじめとしたものをつくってきた。いまここにあるもの、目の前にある素材をどう活かせば、便利に機能を果たし、かつ美しいものがつくれるか。身近な素材と親密な対話を繰り返し、各々の個性を活かし、無理を強いることなく、気候風土や自然が求めることに対しても無理をしない。そのようにしてつくられてきたものは、本当に無駄がなく美しい。なぜその素材を選んだのか、なぜその形になったのか、細部から全体に至るまで説得力に満ちている。その土地ならではの個性が自ずから備わって、つくられた当時はもちろん後世にいたるまで、そこで暮らす人々のアイデンティティの一部となって、誇りと勇気を与えてくれている。

「いまここにあるものでつくる」

土地と素材とが切り離され、世界中どこででも同じものや同じ建物がつくられるこの時代、いまや昔となってしまったこの古来の原則を、復権させることができないか? そう考え続けてきた中で、はじめは山の木の活用に取り組み、今では街の木の活用を試みている。 眺めるだけの緑から活かす緑へ。伐ったらお終いの街の木から、ずっと続く循環のある都市森林へ。街の木のあり方をアップデートして、街の暮らしと空間を変えていく。私たちの街で「いまここにあるものでつくる」という原則が復権し、わずかずつでも街の景色が変わっていったならどうだろう。情報はきっと早いはず。世界のあちこちで、同じことをする街が出てくるかもしれない。もうどうしようもなく、ワクワクしているのです。

Yoshiyuki Yuguchi